留学大図鑑 留学大図鑑

武末江莉

出身・在学高校:
西南学院高等学校
出身・在学校:
テキサス大学オースティン校
出身・在学学部学科:
医療工学部
在籍企業・組織:

アメリカ大学院生の日常について、たまに更新しています。


最終更新日:2018年10月31日 初回執筆日:2018年10月31日

アメリカと日本の大学院の違い

留学テーマ・分野:
大学院進学(修士号・博士号取得)
留学先(所属・専攻 / 国 / 都市):
  • テキサス大学オースティン校 医療工学部
  • アメリカ合衆国
  • オースティン
留学期間:
5年を予定(現在4年目)
総費用:
200,000円 ・ 奨学金あり
  • (独)日本学生支援機構(JASSO)「海外留学支援制度」 12,000,000円

語学力:

言語 留学前 留学後
英語 生活に困らない程度の日常会話ができるレベル<TOEFL100> 専門的な研究や会議において、議論や調整ができるレベル<ー>

留学内容

医療工学の最先端であるアメリカで研究手法を学び、一人前の研究者になる。これが留学の目的です。卒業後はアカデミアに残り研究職に就きたいと思っている私は、アカデミアの世界で生きていく上で、拠点をどこに置くかをとても迷いました。アメリカか日本か。これはとても難しい判断であり、これは留学をせずには決められないものだと考えたので、留学を通して日本とアメリカのアカデミアでの生活の違いを探ろうと思いました。以下にこれまでに4年間でわかったことを記します。
①教授はグラント(政府、企業からの補助金)を取らなければラボを運営できない。日本では学校や政府からの補助金が支給されるため、お金がなくてラボがつぶれるといったことはあまり聞きませんが、アメリカではお金がないと大学院生も雇えず、試薬も何も買えずにとても苦労する様子が伺えました。(エピソード1に記載)
②院生は学部生を雇うことができる。(エピソード2に記載)
③TAの責務が重い。
④授業は一方通行ではない。会話をしながら授業が進んでいくため、聞いていて楽しい。また、宿題やプレゼンが非常に多い。寝ている人は皆無。
⑤研究において院生が責任を負う部分が多い。(エピソード3に記載)
このように沢山の違いがある中で、今後どのような道を進むかは模索中ですが、この体験記が少しでも同じような疑問を持っている方の役に立つことを願っています。

留学の動機

学部生の時に1年間カリフォルニア大学へ交換留学生として派遣されました。その時に出会った院生達がとてもカッコよかったからです。彼らとはパーティー等で頻繁に会うにもかかわらず、専門分野に関しての知識量はとても豊富で、私に勉強もわかりやすく教えてくれました。どうやったら彼らのように遊びも勉強も器用にこなせるのだろうか。私も彼らのようにカッコいい院生になりたいと思ったのが最初のきっかけです。

成果

ここまでの4年間で日本とアメリカのアカデミアライフの違いをたくさん知ることができたのは大きな成果だと思います。研究に関しての成果はパテントの作成、論文作成、国際会議での発表等

ついた力

ライティングとプレゼンテーション力

ライティングおよびプレゼンスキルが向上しました。中間試験やプロポーザル試験を通して、数十ページにわたる科学的な文章を書くトレーニングをしたおかげでしょうか。また、テキサス大ではライティングを1対1でコーチングしてくれるサービスがあり夏の間毎週通っていた成果かもしれません。発表に関しては、毎週のラボミーティングで先生がどんな発表がわかりやすいかを教えてくれたことが大きく貢献しているように感じます。

今後の展望

留学を通して私が感じたことは、日本の大学の授業は一方通行だったということです。授業は教授が一方的に話すだけで生徒とのコミュニケーションがない。これでは生徒がどこまで理解しているかもわからないし、彼らがどんな授業を求めているかもわからない。もっと相互的な授業が日本にも必要だと私は思います。日本の大学の授業をもっと相互的なものにしていくために、日本に戻ってアカデミアの道を進むことも視野にいれています。

留学スケジュール

2015年
8月~
2020年
5月

アメリカ合衆国(オースティン)

上記では日本とアメリカの大学システムの違いを記したのでここでは具体的に自分の研究内容について書きます。
研究内容は、末梢動脈疾患におけるたんぱく質療法についてです。生活習慣病の一つに動脈硬化がありますが、末梢動脈疾患とは、この動脈硬化が四肢で起こった場合を指します。血管が詰まると通常ではステントやバルーン療法を用いて血流の回復を促しますが、私の研究ではたんぱく質を用いて新しい血管の新生を促し血流を回復させます。
1年目の学校生活は主に授業の履修とTA業務で、自分の研究はほぼ進まなかったように記憶しています。2年目以降からRAに切り替わったため、研究に集中できある程度の成果を挙げることができたと思います。主な成果としては、パテントの作成、論文作成、会議での発表です。

費用詳細

学費:納入総額

15,000,000 円

住居費:月額

40,000 円

生活費:月額

60,000 円

項目:レジャー費

20,000 円

細胞実験の様子。生き物の管理は大変です。土日も学校へ。
費用詳細

学費:納入総額

15,000,000 円

住居費:月額

40,000 円

生活費:月額

60,000 円

項目:レジャー費

20,000 円

スペシャルエピソード

ラボ選びは慎重に

アメリカの大学院では、お金があるラボとないラボの差が顕著に現れます。日本のラボに所属していた時は、どのラボがお金持ちなんて考えてもみませんでしたし、学生生活に大きな影響はありませんでした。しかしアメリカは違います。もし担当教員がグラントを取ってこれずにいると、まず生徒はTA(ティーチングアシスタント)をしなければいけなくなります。なぜならばTAは大学が院生に給料を支払うため担当教員はお金を支払ずにすむからです。反対に、グラントを沢山持っている教員の大学院生は基本的に担当教員から雇われており、この状態をRA(リサーチアシスタント)と呼びます。RAの学生はTAをしなくてよいため、自分の研究に没頭できる時間が増え、結果的に早く卒業できる可能性が増えます。しかし、TAをするとなると、週に20時間ほど授業のアシスタントとして時間を割かなければならず、自分の研究が全く進みません。さらに、お金がないとなると試薬も実験装置も何も買えなくなり、全く研究が進みません。私の友達は不運にも教員がバジェット難に陥ってしまったため、毎週のように試薬が買えないだとか、TAのせいで全く研究ができないと嘆いています。今後、PhDを取得する予定の方は、ラボ選びの時にグラントを取ってこれる教員を見抜いて、慎重にラボを選ぶことをお勧めします。グラントの取得状態はラボに所属している先輩たちに聞けば大体わかるはずです。

所属する医療工学部のエントランス

面接をされる側からする側へ

日本では、教員が学部4年生の配属を決めますが、アメリカでは、学部生の配属は院生に決定権があります。ある時私も助手が必要となり、学部全体に“学部生助手募集“という内容のメールを流しました。するとその日中に30通を超える応募があり、私は心底驚いたことを今でも覚えています。私はまず履歴書により候補を15人に絞り、彼らと面接をしました。この面接を通して私は沢山のことを学ぶこととなります。この15人の中から私は心に響いた3人を雇うことにしました。この3人は他の12人と何が違ったのでしょうか。
1人目は、15人の中で一番自信にあふれており、彼は自分が何を求め、何を貢献できるのかを端的に述べることができました。
2人目は、15人の中で唯一スーツを身にまとっていた生徒でした。
3人目は、15人の中で一番質問が多い生徒でした。
私はこの面接を通して、面接において何が大切かを学びました。
①自分が何を求め何を提供できるかしっかりわかっている。自分に自信がある。
②身なりをしっかり整える。
③面接者に対し興味を持ちそれを示す。
今までの人生で面接をされる側だった私は、面接者の視点に立って考えることはあまりしてこなかったと思います。しかし、面接する側になって初めてどのような候補が心に残るのかがわかり、非常によい経験をしたと思っています。

所属するラボ。学部生も研究に貢献します。

大学院生の責任の重さ

研究において院生が責任を負う部分が多いと書きましたが、その例を挙げます。
①私のラボでは動物実験を行います。日本の修士学生時代にも動物実験を行ったのですが、その際は外部委託をしていました。動物実験は規制や規則が厳しく許可が下りるまで時間を要することや、専門的な知識が必要なため外部委託の方が都合がよかったからです。しかし、こちらでは院生がすべてを行います。まず、どのような実験を行うのかのプランを立て、それを動物実験を管理する団体に渡します。そして彼らの許可を得たのち、動物実験に必要なスキルを獣医から学び実験をするというわけです。これらの作業は文章にすると数行で終わってしまいますが、実際には1つの動物実験を終わらせるまでに1年かかっています。日本の修士学生がこれを行うと1つのデータを出すのに修士の半分の期間を費やすわけですから、外部委託をした方が理にかなっているというわけです。
②共同研究者とのミーティング。日本にいたときは共同研究者とのミーティングは相手先の先生、私の先生、そして私、といった3者面談のような形をとります。もちろんこちらでもその形が多いのですが、ある時、私の先生は、私一人で相手先の先生とお話をしておいで、と言ってきたのです。その面談は相手先の先生と初めて会う面談で沢山のことを相談する重要なミーティングであったので、私は自分の責任の重さに驚きました。

実験動物が管理されている建物が学校内にあります

困ったらためらわずに聞く

  • 留学先探し : 大学院

大学院生の場合、課題は毎日のようにあります。ここでは研究面と授業履修面について書きます。
<研究に関して>
1年生のころは研究面で何か行き詰るとすぐに担当教員に相談していました。大抵の問題は教員とのディスカッションにより解決できると思います。彼らはその道のプロなので、何か困ったことがあれば、ためらわずに相談すると良いと思います。3年生以降からは、私も専門知識が身についてきたため、小さな問題や課題は自分で論文を検索したり、考えたりすることによって自己解決できるようになりました。私からのアドバイスは、ミーティング中でもためらわずに質問することです。他の生徒はわかっているんだろうなあ、と思うことはありますが、私はためらわずに聞いたため、わからないところを残さず次に進めているのだと思います。

<授業に関して>
どんなに英語ができるようになっても、Native speakerでない私は100%聞き取れることはできません。90%わかったところで残り10%に大切な情報が入っていた場合、授業についていけなくなる場合があります。そこで私は、大切なところを聞き逃したなと思うところがあれば、授業後に隣に座っている生徒に聞くようにしています。そうすることによって大切な情報を見逃さずにすみます。また、私はプログラミング等の課題が苦手なため、そのような宿題が出たらすぐにその分野に強そうな友達に連絡を取って助けを求めます。無駄なプライドは捨てましょう。後に苦しむことになります。

留学前にやっておけばよかったこと

リスニングスキルを向上させておけばよかったかもしれません。最初の一年は先生の言っていることが時折わからず授業、ラボの両方において苦労しました。また、私のように専門分野を変える場合は、専門用語をあらかじめ知っておくと良いと思いました。授業のわからない内容のほとんどは専門用語がわからないことによる場合が多かったです。

留学を勧める・勧めない理由

予想もしていなかった出来事と出会えます。毎日が新しい出来事の連続です。日本で退屈している人には是非お勧めしたいと思います。また、教育に興味がある方にもアメリカ留学は向いていると思います。日本とアメリカでは教育方針が全く違うため、日本の大学教育に何が足りないのか、また日本にあってアメリカにはないものは何なのかを知ることができます。

これから留学へ行く人へのメッセージ

留学中は色々な困難が待ち受けていますが、それらの殆どは自分の努力と周りの人の助けによって解決できます。もし留学を迷っている方がいるとしたら、とりあえず日本国内で募集している奨学金に応募してみましょう。初めの一歩を踏み出すことが何より大切だと思います。