アメリカ合衆国(バークレー)
アメリカ・バークレーでの私の留学生活2年間は、当時はまったく成果も先も見えないように思え、辛いものでした。しかし、振りかえってみて、あの留学生活で人に助けを求められるようになったこと、また留学先で出会ったたくさんの人との縁が、今の研究生活に新たな楽しみをもたらしてくれていることは間違いありません。(研究成果として今まで、そしてこれから発表されるものだけでなく、バークレーで会った人との出会いは、言葉通りの意味で私の人生を変えたとはっきりと言えます。
カリフォルニア大学バークレー校日本研究センターにて、2019年9月から22カ月の予定で入国、1学期を過ごしたところでコロナがカリフォルニアにも上陸し、ロックダウン(Shelter in place oder)となってしましました。先の見えない中、授業や研究指導はオンラインに速やかに移行し、数名のハウメイトとスーパーのレジ以外ではほとんど対面で人と言葉を交わすこともない日々が続きました。
2021年の渡米直後から参加していたアメリカ型の大学院セミナーは、多量の文献を読み、それについて討論をするという形式。日本でもそうした形式の自主ゼミなどには参加していたものの、慣れない生活と圧倒的な英語の購読量に圧倒され、研究室の友人との毎週金曜日の学科の院生飲み会に誘われても課題が終わらずひきこもる日々でした。研究者としての圧倒的な体力、地の力のなさを痛感し、一番つらかった時期です。
約2年間のあいだ、予定していた博物館展示準備の参加や資料調査などはコロナ禍のため全くできませんでしたが、バークレー校のフィービー・A・ハースト人類学博物館のオンライントークシリーズで一般向け講演の機会をいただいたり(注1)、研究のための資料調査に全く行けなかった分、文献の読み込みや公開されているオンラインリポジトリの資料探索に時間を割くことができました。普段とても忙しい留学先の先生にも、密なやりとりで指導をしていただけたことに感謝しています。また大学院の友人や同じ日本人研究者の人々を含め、多くの人々にとって大変なコロナ禍の間にも、思いやりを尽くして接しあえたことがとてもいい思い出となっています。
コロナ禍後半の2021年初め、研究室の友人のひとりが彼女のホームタウンであるユタ州へ招いてくれ、彼女とともにたくさんのユタ州南部の遺跡踏査や国立公園へ出かけました。そのうちの一つの踏査は日本帰国後に彼女との共著として学術雑誌で発表しました。(注2)
日本に帰国後には、カリフォルニアでの留学期間に研究としての興味がわいてきた文化的火入れについての紹介論文を書き(注3)、もともと続けていたかご作りの人々や研究者との交流を通じて、さらに研究を発展させていこうと話しているところです。
注1)西原和代 2020「Basketry and Plant Use in Prehistoric Japan」オンライン公開講演, 2020年企画展Cloth that Stretches: Weaving Community Across Time and Space. 関連講演. バークレー, 講師, 共催: フィービ―・ハースト人類学博物館・カリフォルニア大学バークレー校日本研究センター
注2)アンナ・ニルセン, 西原和代 2023「考古フォーカス アメリカ合衆国ケイヴタワーズ遺跡とミュール渓谷」考古学研究. 277: 115-117.
注3)西原和代 2023「文化的火入れが保つ景観―カリフォルニア先住民の長期的植物資源管理―」『文化財論叢Ⅴ』奈良文化財研究所創立70周年記念論文集, 奈良文化財研究所学報第102冊, 奈良文化財研究所, pp. 743-754.