息子の最初の留学は中学1年生、シンガポールでの1か月間のサマースクールでした。いろんな国の人が流暢ではない英語で一所懸命話している環境に身を置き、中学生にして海外でひとりでタクシーに乗っている。親に言われたら反抗するようなことも、ホームステイ先の方にいわれれば背中を押されて頑張れる。そんな環境の中で、「こんなことが自分にできるんだ!」と発見する出来事が多かったようです。
高校生になるころには、「映画監督になりたい。フィルムメイキングが学べる南カリフォルニア大学を目指したい」というようになりました。映画監督を目指すようなコースは日本の大学には多くありませんが、海外の大学にはフィルムメイキングやミュージカルの学部なども豊富なんですよね。それで、エージェントさんに相談し、次は語学学校ではなく、英語を使って映画について実践的に学べるコースを探しました。夏休み前になると語学学校のコースが増えますが、早い時期に探すとそういった実践的なコースも探すことができます。
渡航してみると、初日の夜に「やばいわ」と連絡がありました。そのコースには世界中から参加者が集まっていて、先生が「意見があるか」と問いかけると、みんな一斉に話し始めたのだそうです。手を挙げて当てられるのを待つのが当たり前の日本とはまるで違う環境。それで、「日本だけにいるとやばいわ」と自分から言ってきたのです。語学学校に行くのと、英語イマージョン、つまり英語を使って何かをやるという経験は全く違うものをもたらしてくれたようです。
本当は、そのコースに参加するには年齢が足りなかったのですが、滞在中に誕生日を迎えることと、すでにシンガポール留学した経験があったので、押し込んでもらえました。
シンガポールでは「自分が思えばなんとでもなる」。イギリスに行った時は「やばい」に意識が変わりました。一度目の留学がなければ、二度目の経験もあったかどうかわかりません。
帰国後の息子は、日本の学校が少し窮屈になってしまった様子でした。
元々そんなにはっちゃけたりするタイプの子ではありませんでしたが、イギリスでは毎週いろんな国の人たちと集まって遊んでいたそうです。そのパーティも、様々な人が自由なスタイルで集まるようなもの。日本にいるより、海外に行く方が面白いって気づいちゃったんですね。
日本の学校では、少し問題になるようなこともありました。指示をいただくことに対して、「なぜですか」と問わずにいられなくなってしまったり。窮屈そうな息子に「そろそろ海外に行った方がいいんじゃないの?」と問いかけると、あっさり、「そうだね~」と返ってきました。
それで一度はイギリスの学校に転校しましたが、コロナの影響で一年半後に日本に帰国。いまは国内でグローバルな環境のある高校に身を置いています。
結果的には遠回りをしたことになり、周囲より1年学年が遅れていることになります。しかし息子は全く気にしていないみたいです。イギリスでは、高校といってもいろんな学校から生徒が集まっていて、クラスの中に3-4歳のレンジがあったそうです。そんな環境にいたら、細かいことは気にならなくなったよう。コロナに振り回された形の帰国ではありましたが、「どうせいま海外の大学に行っても、コロナだしね」と、時間軸が気にならなくなったようでした。同調圧力から解放されているんだな、と感じます。私自身も海外経験がありますが、確かに海外の人たちと話していると、「大学を出た時には28歳だった」なんて方も多いんですよね。
海外生活、グローバルな環境を経験するなかで、息子はどんどん他の子どもと考え方が違っていっていますね。大学受験ひとつ取ってもそうです。日本では、受かりそうな中で偏差値の高い大学をいくつか受け、受かった中でさらに一番世間の評判がいいところを選ぶ、という人も多いと思います。いま息子の周りにいる子たちは、本心から行きたいと思う大学だけを受験し、ダメなら次を考えるという感じなんです。「大学ランキングで大学を選ぶのなんてアジアくらいだよ。みんな自分のやりたいことで大学を選んでいる。偏差値ばっかり気にするなんて、どうなってるんだろうね」なんて、言われてしまいました。
息子はいまは、スペインにあるアントレプレナーの大学を目指したいと言っています。学費は日本の国立大学とあまり変わらないようです。3年間で卒業できる大学もあるので、海外進学だからといって必ずしも国内進学より費用がかさむとは限らないんですよね。
第一志望に受からなかったらどうするの?と聞くと、次のプランもあるようなのですが、最早聞いてもわかりません(笑)。考え方が自由になりすぎて、大学に行かないと言い出すんじゃないかとひやひやしていましたが、とりあえず大学に行く意思はあるようなので、黙って見守っています。
振り返ってみると、変化したのは息子だけではありません。母親である私自身も変化を感じています。「自分が変化し続けていないと、子どもに恥ずかしいな。見本ではなくても、いつも頑張っている姿を見せたいな」と思うようになったのです。
それで、息子の留学中に自分も半年間フォルケホイスコーレ(※デンマークの生涯学習機関。国籍・成績を問わず入学でき、費用負担も比較的軽い)に通い、その後起業しました。
子供がいろんな経験をいっぱいしているのを見て、悔しくなったんです。自分の知らない世界を聞いているうちに、「私もじっとはしていられない!」と思うようになりました。
これからの時代、年齢が上がるほど、変化し続けないといけないのかもしれません。いつか突然環境が劇的に変わることもあり得ます。自分自身が変化していった方がいいんだなと思うんです。子供に背中を見せたいとか、張り合っているという感覚ですね。
私だけではなく、長期の海外留学しているお子さんを持つ親は、何かに気づいて動いている人が多いように思います。子どもを通じて、親の見えるものも全然違ってくるんです。いわば、「人工衛星の視点」で世の中が見えるようになりました。
うちの子どもは、元はと言えば普通の子です。最初の一歩を踏み出す機会があったかどうかで変わっただけです。
海外経験があれば、日本国内だけの経験よりもずっとお給料が高くなるケースもありますし、チャンスが広がります。お子さんが留学したいと言っているのを応援するか迷っている親御さんがいらっしゃれば「自分が死んだ後に遺産相続するよりも、子どもの未来に先行投資しませんか?子供を信じて留学に行かせてあげてください」とお伝えしたいです。
みんな、思い込みの見えない“透明の箱”の中にいるだけ。
きっかけがあれば、誰だって変われるんだと思います。