「私たち北海道教育庁は、例年通り、2月には夏からの対面交流を前提に、この事業の参加者募集ならびにアルバータ州教育省とのコミュニケーションを開始しました。しかしながら、コロナ禍の影響は深刻化していく状況だったので、3月上旬に、アルバータ州教育省に留学期間短縮と実施時期の延期を申し入れました。北海道側からオンライン交流の可否を打診したのは6月中旬でしたが、最終的には8月27日にアルバータ州教育省が発表したコロナ禍における学校運営のガイドライン「スクール・リエントリープラン」に国際教育プログラムに関する規定が示され、今年度は対面での交換留学が実施できない見通しがたち、オンライン交流に切り替える合意に至りました。
アルバータ州との交換留学事業は、道立高校の教員や生徒の認知度が高く、参加を希望する生徒が少なくないので、コロナ禍でも、早期に中止を決定するのではなく、実施に向けて粘り強く取り組む必要があると考えていました。2020年は姉妹都市提携40周年という節目の年でもあり、事業の継続を止めずに両地域の交流をさらに発展させるという目標をアルバータ州教育省と共有できたことがオンライン交流の実現につながったのだと思います。」(北海道教育庁 高校教育課主査 田原勇人さん)
提供:北海道教育庁学校教育局高校教育課
北海道とアルバータ州の相互派遣型ホームステイプログラムは、それぞれの地域在住の高校生10名をペアにし、お互いの家に2か月間ホームステイをしながら、パートナーの学校に通い、授業や学校行事等を体験するプログラム。例年、8月にアルバータ州の高校生が来日、北海道に2か月滞在した後、11月からの2か月間に、北海道の高校生がアルバータ州を訪問する。参加対象は北海道立高等学校の1、2年生あるいは中等教育学校の4、5年生。ホームステイ中に掛かるアルバータ州からの留学生の食費等の生活費や通学費を負担するかわりに、アルバータ州に留学中に掛かる同様の費用を受入れ家庭が負担する形で費用の相殺をすることに加え、国際線の往復航空運賃に対し、最大10万円までの補助金交付を受けることができるため、道内では、「参加しやすい」留学プログラムとして好評で、事業開始以来、26年間に70校から208名もの高校生の留学機会を創出している。
2020年度のプログラムの実施についてアルバータ州とコミュニケーションを図るなか、コロナの状況を鑑み、オンライン交流に切り替えることが決まり、メールやビデオ会議での協議を重ね、纏まった運営方法および内容は、両地域の高校生をペアにし、それぞれ4週間を1単位とするホスト期間とゲスト期間を設定、平日1回(15分)、週末1回(30分)の週2回、合計16回オンラインで繋がり、学校や家庭生活、趣味、文化、社会問題について話し合う形で交流を図るというもの。
使用する言語は英語および日本語で、基本的にホスト側の母語を主たる交流言語とする、交流タイムは平日、週末共、日本時間の9:00~12:00(カナダ時間17:00~20:00)、毎回のテーマは交流タイムの終盤に、アルバータ州教育省と協力して作成したテーマリストの中から次回の話題をどれにしようかと参加者同士で相談する形を採った。これらの条件を纏め、実施要項に基づき、書類審査や面接選考を行い、9名の生徒の参加を決定した。
令和2年度高校生交換留学促進事業に係るオンライン交流プログラム実施要項
〔スケジュール〕
〜8月中旬 | 学校を通じて参加希望者を募集 |
---|---|
8月下旬 | 各管内教育局による面接選考 |
11月上旬 | 参加決定通知 |
11月14日〜11月15日 | オンライン事前交流会 |
11月〜12月中旬 | オンライン交流 第1期 |
1月下旬〜2月下旬 | オンライン交流 第2期 |
プログラム運営上のさまざまな工夫の内、特に注目したいのは、これまでの交換留学事業の流れを汲み、ひとつひとつのプログラムを「日本語版」と「英語版」の設定とし、すべての参加者が留学生の受入れをする「ホスト」としての立場も、派遣留学生として現地を訪問する「ゲスト」としての立場も疑似体験できるユニークなしくみになっている点だ。
前述のように、この事業は全期間を2期に分け、ホスト側とゲスト側がどちらになるのかを事前に決めており、各回で話し合うテーマも下図のように、その場でお互いの国の場合を話し合うのではなく、常にホスト側の国の場合を取り上げるため、ひとりの参加者から見ると、同じ内容について、主に自分のことを紹介する(話す)体験と、相手のことを知る(聞く)体験をすることができる。
〔各回の交流テーマ〕
第一期:ホスト/日本、使用主言語/日本語
第1週 | 11/26〜 | 〔日本の学校生活〕 時程、通学方法、科目、校則、行事、課外活動 |
---|---|---|
第2週 | 11/23〜 | 〔日本の家庭生活〕 家族の紹介、ペット、食事、家事、家族との時間 |
第3週 | 11/30〜 | 〔生徒の地元〕 大きさ、有名なもの、親しまれている活動、祭りや行事 |
第4週 | 12/7〜 | 興味・関心のあるテーマや特定分野のテーマなど |
第二期:ホスト/カナダ、使用主言語/英語
第1週 | 1/25〜 | 〔アルバータの学校生活〕 時程、通学方法、科目、校則、行事、課外活動 |
---|---|---|
第2週 | 2/1〜 | 〔アルバータの家庭生活〕 家族の紹介、ペット、食事、家事、家族との時間 |
第3週 | 2/8〜 | 〔生徒の地元〕 大きさ、有名なもの、親しまれている活動、祭りや行事 |
第4週 | 2/15〜 | 興味・関心のあるテーマや特定分野のテーマなど |
さらに、道教委とアルバータ州教育省の担当者がファシリテーターとなり、ペアになる生徒たちの初回交流の前におこなった事前交流会の実施も注目すべき工夫だ。
この事前交流会は、9組それぞれのペアに対し、15分程度の時間を設定し、円滑な交流ができるよう、生徒たちの不安や緊張の緩和をする機会と位置づけられている。事前に全体の進行や使用する言語、事前に話す順番を決めておく等、短い時間の中で主たる活動に割り当てる時間を最大限に使い、進行の流れも途切れないような準備や、ゲームをするアイスブレイクの実施をファシリテーターが主導するなど細やかな配慮が光る。
〔事前交流会の運営進行〕
時間 | 使用言語 | 内容 |
---|---|---|
1分 | 英 | 通信状態の確認、参加者の確認 |
1分 | 英 | 主催者挨拶(道教委、ア州教育省)及び趣向説明 |
2分 | 日英 | 【自己紹介】(北海道生徒→アルバータ州生徒の順で) 名前、学校、居住地、応募理由、交流を通して高めたいスキルを話す |
4分 | 日英 | 【アイスブレイク1(Word Chain)】 ・活動の説明 ・デモンストレーション(運営者) ※2回実施(1回目は日本語、2回目は英語) |
4分 | 日英 | 【アイスブレイク2(Witness)】 ・活動の説明 ・デモンストレーション(運営者) ※2回実施(1回目の出題は日本、2回目はカナダから) |
6分 | 日英 | 【プレゼンテーション「私の好きなこと」】時間:1人2分以内 |
・発表方法:発表者は母国語でプレゼン、終了後、パートナーが相手の言語で質問、運営者が母国語で質問。 ・準備:スライド、パフォーマンスをする場合は必要な物品等 ・発表順:アルバータ州生徒→北海道生徒 |
||
1分 | 日英 | 【挨拶】1回目の交流日時の確認と挨拶 |
その他、北海道の生徒たちに対し、学校での交流時には、学校の様子や施設を画面で紹介をするよう促し、家での交流の際には、家族にも可能な範囲で交流に加わる協力を依頼することで、バーチャルなホームステイや学校訪問の雰囲気が伝わるよう配慮したこと、交流タイム中に不具合等があった場合にいつでもサポートに入れる備えとして、各ペアが繋がるビデオ会議のオンラインアドレスを運営側が集約し、学校と連携を図っておく一方、事前交流会以降の交流タイムでは、生徒たちがリラックスした状態で対話ができることを最優先に、不要な介入はしないというスタンスをとったことも参考にしたいポイントだ。参加した9名の生徒の中には、日本の友達を伴ってオンラインに入り、友好の輪を拡げていたケースもあり、自由な交流を大いに楽しんでいたという。
事業実施後のアンケートでは、参加した9名全員が「英語力が向上した」、「パートナーとの交流を今後も続けたい」、「パートナーの住む地域に対する理解が深まった」と回答、これらの結果からも、現地を訪問あるいは受入れをする対面交流が困難な状況であっても、オンライン交流によって、生徒たちが自身の成長を感じ、交流する相手の国や異文化への関心および留学意欲の向上に繋がる体験の創出を可能であることが判る。一方、「毎回の時間設定の長さが短かった」、「もっと長く繋がりたかった」という意見や、第二期の開催期にコロナの関係で変更になった期末考査の時期が重なり、日本の生徒にとってはこの両立が負担になったという報告、両国間の時差から日本の日中とカナダの夜間の設定での交流になったため、日本の生徒の平日は学校から、週末は家から交流する状況であったことに対し、カナダの生徒は常に家庭からのアクセスだったために、日本の生徒からは「カナダの学校を見てみたかった」という声も挙がっており、これらの点も今後の実施を検討する上で参考にしたい貴重な情報だ。