留学大図鑑 留学大図鑑

安田 裕貴

出身・在学高校:
富山県立砺波高等学校
出身・在学校:
国立大学法人 千葉大学
出身・在学学部学科:
融合理工学府 基幹工学専攻 機械工学コース
在籍企業・組織:


最終更新日:2025年09月09日 初回執筆日:2025年09月09日

生物飛翔の法則に迫るロンドン研究留学

留学テーマ・分野:
大学院生:交換・研究留学(日本の大学院に在籍しながら現地大学院内で学ぶ留学)
留学先(所属・専攻 / 国 / 都市):
  • 王立獣医科大学 Structure and Motion Laboratory
  • イギリス
  • ハートフォードシャー
留学期間:
6ヶ月
総費用:
1,500,000円 ・ 奨学金あり
  • トビタテ!留学JAPAN「日本代表/新・日本代表プログラム」 1,310,000円

語学力:

言語 留学前 留学後
英語 授業や会議の内容が理解でき、必要な発言ができるレベル<英検1級、TOEIC980点、IELTS overall 8> 専門的な研究や会議において、議論や調整ができるレベル

留学内容

新幹線の先端形状が鳥の嘴を模倣しているように、生物模倣工学は様々な分野で高効率化やノイズ低減などに生かされています。同様に、インフラや軍事分野で重要度を増すドローンにおいても、飛翔生物の洗練された特徴を学ぶことで、性能向上が果たせるはずですが、生物模倣には工学と生物学両方の知見が不可欠なため、生物流体力学の実験における第一人者であるBomphrey博士がいらっしゃる王立獣医科大学での留学を計画しました。結果として、ライセンスや設備の都合で当初予定していた実験は行えませんでしたが、代わりにバイオインフォマティクスやデータサイエンスといった新たな分野で、工学とは異なるアプローチのデータ処理技術を学ぶことができました。

留学の動機

留学を志した原体験は、高校時代のボストンでの1週間のホームステイです。英語が全く話せない自分に衝撃を受け、それから語学の向上に努めました。2020年に大学へ入学したものの、コロナ禍で留学の機会は閉ざされていました。そんな中、図書館で偶然手にした船橋力さんの著書に感銘を受け、また卒業研究で躓いていたのもあり、何か行動を起こさなければならないという強い危機感を覚えたのが留学を決意したきっかけです。

成果

2件の学会発表を終えて、研究成果の論文投稿の準備をしています。学びの部分では、やってみると意外とハードルが低いことが多いことに気づきました。テーマに応じて、論文の読解力や基礎的なコーディングスキルは必要ですが、文字面だけを見てチャンスを逃すのはもったいないと知ることができました。また、助けが必要な時に周囲からサポートを得られる環境の重要性も痛感し、自らそうした環境を選ぶことの大切さを学びました。

ついた力

ホウレンソウ、図々しさ、アイデア力

自身の専門である工学とは異なる生物学分野の研究に挑戦したことで、無知を恐れず、初歩的な疑問から自分のアイデアまで積極的に質問する姿勢が身につきました。そのような質問が歓迎される土壌こそが、欧州の研究力の高さの一因だと感じました。留学中はデスクワークが主でしたが、毎日研究室のメンバーとの昼食やティータイムに参加することで、報告・連絡・相談を円滑に行う力が向上したと実感しています。

今後の展望

留学前から日本の国力に貢献できる仕事に就きたいと考えており、留学直前には日系のメーカー数社でインターンシップを経験しました。卒業後は半導体系のメーカーに勤務する予定です。日本はかつて半導体製造で世界をリードしており、今後は製造装置などの分野で再び成長が期待されています。各国の競争等が激化するグローバルな環境でこそ、この留学経験を活かせると考えています。

留学スケジュール

2024年
9月~
2025年
2月

イギリス(ハートフォードシャー)

半年間、王立獣医科大学のStructure and Motion Laboratoryで研究活動を行いました。当初の計画では、昆虫の飛翔時に生じる後方気流を可視化するPIV撮影(粒子画像流速測定法)という実験を通じ、解析技術の習熟と飛翔効率に関わるパラメータの考察を目指していました。日本での装置設定に苦労していたため、この分野の第一人者であるBomphrey教授の指導を仰ぐことが目標の一つでした。しかし渡航後、英国内での実験には専用ライセンスが必要なこと、設備が解体されていたこと、時季的に対象昆虫の採集が困難なことが判明しました。そこで、研究目的は維持しつつ、バイオインフォマティクスや統計分析へと手法を切り替えました。機械工学出身の私には未知の分野でしたが、研究室の博士課程の学生や紹介していただいた教授に助言を請い、手法の妥当性や基礎的理解を深めました。Bomphrey教授とは、今でも隔週程度でミーティングを行っており、帰国後に2度の学会発表を終え、現在は比較生物学分野の学術誌への論文投稿を目指しています。
生活面では、Flatshareというアプリで見つけた家で3人のインド人男性と共同生活を送りました。家賃が高騰しているロンドン近郊ではシェアハウスが一般的です。留学当初、てんやわんやだった私に彼らが作ってくれたスパイスカレーの味は忘れられません。打ち解けてからは何種類もの南インドのレシピを教わりました。日本食が恋しくなることもありましたが、ロンドンには日本食材店も多く、彼らにラーメンやお好み焼きを振る舞うと大変喜んでくれ、私も嬉しくなりました。

費用詳細

学費:納入総額

- 円

住居費:月額

90,000 円

生活費:月額

50,000 円

項目:娯楽費等

20,000 円

カメラシステムでスキャンされている私と、3Dプリントされた私
費用詳細

学費:納入総額

- 円

住居費:月額

90,000 円

生活費:月額

50,000 円

項目:娯楽費等

20,000 円

スペシャルエピソード

この国のことが、とても好きになった瞬間

留学中で最も印象的だったのは、毎日のティータイムの文化です。まず驚いたのは、研究室のメンバー全員で昼食をとる習慣でした。語学には自信がありましたが、イギリス英語のアクセントに苦労したため、この時間は貴重な練習の機会となりました。最初の2ヶ月は聞き取るのが精一杯でしたが、後半は自ら会話を始められるようになりました。そして、最も素晴らしいと感じたのが、昼食後に研究室の共用スペースで自然と始まるティータイムです。ここでは教授と学生が、研究の悩みから日常の愚痴まで、あらゆることを気軽に話せる雰囲気がありました。日本では指導教員への報告に身構えがちでしたが、この経験を通じ、問題や疑問をすぐに相談し解決する姿勢が身につきました。帰国後は、この習慣を日本の研究室でも取り入れています。

紅茶とミルクが飲み放題。お茶係を買って出て会話のきっかけに。

研究計画の甘さとリスニングの難しさ

  • 帰国後の進路 : その他(インターンシップなど)

前述の通り、当初の研究計画がライセンスや実験設備の関係で遂行できなくなりました。当初の実験計画が頓挫した際は、「自分にしかできないこと、今しかできないこと」を自問し、データサイエンスに近いアプローチで研究を継続することにしました。専門外の分野で論文を執筆する際は、些細な表現一つで「勉強不足 (Not well read)」と見なされかねません。そこで、毎日最低一本は関連論文を読む習慣をつけ、分野の作法に適応するよう努めました。その過程で、新しいことを学ぶ楽しさを再発見できました。語学面では、自分より英語が流暢でない研究者も堂々と議論している姿を見て、完璧な語学力よりも、自分の考えをまずは醸成すること、そしてそれを伝えることの重要性を学びました。IELTSなどで測れる能力は日本でも向上できますが、現地での生活を通して、日常会話で使われる細かな語彙や状況に応じた表現の使い分けの重要性に日々気づかされました

留学前にやっておけばよかったこと

第一に、指導教員と密に連絡を取り、現地の研究計画や使用可能な設備について詳細を詰めておくべきでした。第二に、日本語の専門書は現地で入手困難なため、持参する書籍を厳選したり、電子化したりすれば良かったです。第三に、交通費の節約方法を事前に調べておくべきでした。レイルカードや往復券の利用で料金は大幅に安くなります。また、大学のシャトルバスの存在を知らず、最初の1ヶ月間、交通手段で大変苦労しました。

留学を勧める・勧めない理由

私は留学を通じ「人間としての馬力を上げたい」と考えていました。私なりの定義でいうと、未知の物事にも臆せず挑戦し、粘り強く継続できる力のことです。留学生活は予期せぬことの連続であり、様々な問題に対処する力や、逆境を乗り越える力が自然と身につく貴重な機会だと思います。

これから留学へ行く人へのメッセージ

私が留学に踏み切れたのは、一冊の本と、現状への少しの危機感でした。もし今、何かを変えたい、新しいことに挑戦したいという思いがあるなら、すぐに行動に移せなくても、その気持ちを大切に育んでほしいと思います。留学は毎日が発見の連続です。これから留学される皆さんは、ぜひ一つひとつの出会いや経験を大切に、楽しんできてください。