留学大図鑑 留学大図鑑

保坂 英志

出身・在学高校:
出身・在学校:
秋田工業高等専門学校
出身・在学学部学科:
創造システム工学科機械システムコース
在籍企業・組織:


最終更新日:2024年11月27日 初回執筆日:2024年11月27日

3Dプリンタの加工精度向上を目指した研究

留学テーマ・分野:
日本の在籍する高専の留学研修制度を利用
留学先(所属・専攻 / 国 / 都市):
  • グアナファト大学工学部
  • メキシコ
  • グアナファト
留学期間:
1o7日間
総費用:
840,000円 ・ 奨学金なし

語学力:

言語 留学前 留学後
英語 生活に困らない程度の日常会話ができるレベル<TOEIC L&R 590> 生活に困らない程度の日常会話ができるレベル<TOEIC L&R 550>

留学内容

留学全体のテーマは「FDM式3Dプリンタ(熱熔解積層式3Dプリンタ)による加工精度の向上を目指した基礎検討を行う」というものでした。
この留学の考え方は、「3Dプリンタのについて分からないこと(熱歪みの発生のプロセス)があるから、それを分かるようになるために、研究ができるところに行こう」というものです。この考え方に基づき、秋田工業高等専門学校の海外技術研修制度を利用し、3Dプリンタを運用している先生がいらっしゃる、グアナファト大学工学部へ留学し、そこで3Dプリンタで品物を印刷して、その品物を観察して熱歪みの発生について理解を深めよう、という計画を立てました。
結果として、熱歪みの発生を記録する方法の提案・実験装置の構築を行うことができました。しかし、3Dプリンタの故障や実験装置の組み立ての遅れなどが生じ、品物を多数印刷して、熱歪みの発生について理解を深めるには至りませんでした。

留学の動機

留学を決心したきっかけは、在籍していた工業高等専門学校において、「海外技術研修制度」なるものが存在することを知ったことです。この制度を利用し、日本では研究事例が稀なFDM式3Dプリンタについて、海外で研究してみたいと感じたことが直接の動機です。これに至る間接的な動機としてはFDM式3Dプリンタを用いて品物を印刷した時、熱歪みの是正に苦労した経験がありました。

成果

この留学の成果として、まず、留学内容の項で挙げたように、3Dプリンタによる印刷物に生じる熱歪みの発生を記録する方法を提案し、そのうち一つの方法について実験装置を構築しました。また、大学内での3Dプリンタ運用に協力したことから、3Dプリンタの運用ノウハウや活用法に関しての知見を獲得しました。

ついた力

自分でつくる力

この力は、故障した3Dプリンタの修理、実験装置を設計・作製、などの経験から身についたものであると感じています。留学前には、周囲の人々も私自身も、故障した機械があればアセンブル部品を付け替えたり、必要なものはなるべく購入して済ませるたりするだけのことが多かったですが、留学中の、自分自身が責任を持ち、ものを治したり、つくったりする経験を通じて、自分でつくる力(技術力)が鍛えられたと感じています。

今後の展望

留学を経たことで、工学を学ぶ技術者として、私自身の技術力の向上のために、幅広い経験を積みたいと考えています。そして、問題の大小を問わず、技術力によって解決できる技術者を目指したいと考えています。これは、留学中に出会った先生や学生、技術者たちが、自分の専門以外の分野に関しても知識を持ち、他者と協力を取りつつも、自分の能力と責任によって、仕事や学習に向かう姿勢から影響を受けたことによる考えです。

留学スケジュール

2023年
8月~
2023年
12月

メキシコ(グアナファト)

グアナファト大学工学部サラマンカキャンパスにおいて、材料力学研究室に所属し、FDM式3Dプリンタによる印刷物に生じる熱歪みに関する研究を行いました。これにより、熱歪みの発生を記録する各方法を検討し、実験装置を構築しました。また、大学内で3Dプリンタを用いて部品をつくるときに、印刷に協力しました。3Dプリンタが故障したことや、思うように実験装置の作製が進まないことなど、いくつかのハプニングを通して、自分自身で修理や作製ができる技術力を身につけねばならないと感じるようになりました。
 また、同学の航空工学研究室の競技用ロケットの作製に協力しました。競技会は開催地の台風による被害によって中止となったものの、試作や試験を友人たちと行ったことは楽しい思い出です。
 生活については、アパートに居住し、メキシコ中央高原の比較的穏やかな気候のおかげか、快適に過ごすことができました。また、友人たちとタコスを食べに行ったり、私が作った日本食を振舞ったりと、充実した食生活を送りました。加えて、アパート付近の広場で、ほとんど毎晩行われる催し物を見学することによって、メキシコの文化に触れることができました。

費用詳細

学費:納入総額

- 円

住居費:月額

34,000 円

生活費:月額

30,000 円

項目:チップ代(一回につき100円ほど)

- 円

万能試験機に引っ張り試験用の試験片を取り付ける筆者の様子
試作ミニロケットを打ち上げる様子
3Dプリンタで印刷を行う様子
費用詳細

学費:納入総額

- 円

住居費:月額

34,000 円

生活費:月額

30,000 円

項目:チップ代(一回につき100円ほど)

- 円

スペシャルエピソード

留学中に病気にかかったらどうするか?

私は留学3日目に風邪をひきました。
 風邪をひいたのは留学が始まったばかりの時期であったため、どこに薬を買いに行けばよいか、医療機関はどこにあるのか、分からないことが多く、不安に感じました。発熱後すぐに日本の先生方に連絡し、「留学も、体調管理も、自己責任である」とアドバイスを頂き、「自力で解決するぞ!」と決意を新たにしたことを覚えています。
 しかし、3日ほど経っても熱は上がるばかりで、不安は続きましたが、飛行機内で出会った在メキシコ邦人の方にアドバイスを頂いたり、SNSを通して友人やトビタテ生の方々に見舞いのメッセージを頂くことで、勇気づけられました。
 この発熱に関して、最も印象的なエピソードは、出会ったばかりのメキシコの大学の先輩方が、中華料理と風邪薬を持ってお見舞いに来てくれたことです。ほとんど初対面の私を心配してくれたこと、日本出発後久しぶりにアジア料理を食べることができたことがうれしく思いました。
 最終的に5日ほどで熱は下がりましたが、風邪薬と信じて飲み続けた錠剤は、巨大な痛み止めであったことが判明しました。思えば、日本出発前に準備のために徹夜を繰り返したことが、発熱の原因であった可能性があります。体調管理に気を付けるべきと思い知らされたエピソードでした。

解熱後SNSにアップロードした風邪薬の画像

海苔なしで巻き寿司をつくるには?

私は、留学中に、巻き寿司を何度か作りました。
私の留学中のアパートの隣人や、大学の友人や先輩は、パーティなどの軽食を伴った会合に、よく私を誘ってくれました。誘われたからにはお土産を持って行きたい、できれば日本的なものを持って行きたいと考えるようになり、巻き寿司を持って行こうと考えました。巻き寿司は、メキシコのスーパーでも見かけたことがあり、知名度と日本らしさが大きいものであると考えられたからです。
 しかし、メキシコでは、海苔が苦手な人が多いこと、生食できる魚の入手は困難なことを知り、対策を講じる必要が生じました。日本ではほとんど料理をしない私には、のりと魚なしで巻き寿司を作る方法は見当がつかず、母親と祖母に国際電話で相談しました。二人から、魚の代わりとしてカニ風味かまぼこ、海苔の代わりとして「きゅうり」を教えてもらい、巻き寿司の作り方やコツも伝授されました。
 その後、メキシコでは「スリミ」として売られているカニ風味かまぼこを入手し、悪戦苦闘の末に巻き寿司を完成させました。パーティでの評判は上々で、帰国するまで何度も巻き寿司を巻きました。私の作った巻き寿司は不格好なものでしたが、日本とメキシコをさらに知るきっかけになった思い出深いエピソードです。

「きゅうり巻き」の外装の外観
寿司ロール、天ぷら、和風サラダを供したホームパーティの食卓

どのように日食から日墨修好の歴史を感じるか?

私は、メキシコで日食を観察する機会に恵まれました。
私が留学中の2023年の10月の中旬に、メキシコで日食が起きました。私は、メキシコにもカメラを持ち込んでいたので、この日食をぜひ撮影しようと考えました。かつて太陽を重要視していたアステカ文明が栄えた地であるメキシコでの日食は、きっと特別なものになるとワクワクしながら、減光フィルターや三脚を用意して、日食当日に備えました。
 いよいよ日食が起こる日の朝、私は早起きをして撮影の準備を終え、あとはアパートの隣人や友人と日食を見守るばかりとなりましたが、誰も起きて来ません。私は「日食が起きるよ!」と方々に触れ回りましたが、「休日はゆっくり寝たい」「朝食が済んでいないから軽食を摂ろう」など、いまいち日食に対して情熱が感じられませんでした。しかし、友人たちは私に付き合ってくれたようで、ポテチップスをご馳走になりながら、日食を観測することになりました。
 しかし、このエピソードがより印象的になったのは、帰国してからのことです。それは、日墨修好条規締結のきっかけとなった、明治7年のメキシコ人科学者フランシスコ博士の来日の目的は日食(金星の太陽面通過)の観測であったことを知ったからです。150年の時を経て、場所も状況も違えど、日本人とメキシコ人が共に日食を見上げたことに、不思議な因縁を感じました。

一定時間ごとに撮影した日食を大まかに並べた画像
日食を撮影しているカメラの様子

礼儀正しく行動することは一番の防衛術である

  • 生活 : 治安・安全

私が留学するにあたって、多くの日本人から留学地の治安について心配されました。私自身も治安について心配しながら、留学地に出発したことを覚えています。
 しかし、その心配は必ずしもする必要のない心配であったと考えます。なぜなら、留学中に治安が問題となるような課題に直面したことはなかったからです。もちろん、最悪の場合を想定し、2重3重の対策を立て、慎重に行動することは安全を確保する基本と考えますが、もっとも安全を確保するうえで重要なことは、「礼儀正しく行動すること」だと感じます。礼儀正しく行動することで、悪目立ちしないことはもちろんのこと、何か困ったことがあった時に誰かが手を貸してくれます。
 私は留学中にどんな人にも挨拶をすることを心掛けました。これは、なるべく多くの人の私に対する心象を良くしておいて、何か困ったことがあったときに味方になってくれる人を増やしておこう実利主義的な考えに基づくものです。道ですれ違う時に帽子を持ち上げたり、目があったら微笑み返すなど、簡単な動作しか行いませんでしたが、物を落とした時に届けてもらったり、道を教えてくれたりと少なくない効果があったと感じています。
 よって、出発前に何人か日本人の知人や先生からされた助言のように、道行く人を皆スリとして扱ったり、話かけてくる人を追い払ったり、服装で付き合う人を選択したりするのは、よい安全確保の方法とは言えないのではないかと疑問に思います。武田信玄の「人は城 人は石垣 人は堀 情けは味方 仇は敵なり」という発言が示すように、治安や安全に関する最大の防衛術は、礼儀正しく行動することであると、私は考えます。

留学前にやっておけばよかったこと

私は、留学前に日本料理を習っておけば良かったと感じました。
私は留学前は全く料理をしなかったため、留学が始まってから、食事の確保に苦労しました。毎日外食することも、誰かに作ってもらうことも、できないなら、必ず自炊する必要が生じますが、私は米飯の炊き方すら知らず、最初の一カ月ほどはインスタント食品と屋台のタコスやお惣菜で、空腹を満たさなければなりませんでした。

留学を勧める・勧めない理由

私は留学を勧めます。その理由は「文化や技術が全く異なる地域に身を置くことで、総合的に差異を学ぶことができるから」です。
確かに、日本国内にいても、異なる文化や技術に触れることはできますが、それは多くの場合、触れようと思って触れるコンテンツであり、留学中に頭になだれ込んでくる未整理の情報とは性質が異なるものであると、私は考えます。よって、私は留学することを勧めます。

これから留学へ行く人へのメッセージ

これから留学に行く人へのメッセージは、「留学は孤独ではない」というものです。
留学に行く者は、必ず留学前後で多くの人と出会います。中には、好ましからざる出会いもあるかもしれませんが、多くの人は、あなたを助け、守ってくれるはずです。よって、孤独を恐れる必要は全くありません。