留学大図鑑 留学大図鑑

永田 真子

出身・在学高校:
西大和学園高等学校
出身・在学校:
筑波大学
出身・在学学部学科:
人文社会科学研究群
在籍企業・組織:


最終更新日:2025年09月05日 初回執筆日:2025年09月05日

トルコ・シリア地震における災害実践

留学テーマ・分野:
大学院生:交換・研究留学(日本の大学院に在籍しながら現地大学院内で学ぶ留学)
留学先(所属・専攻 / 国 / 都市):
  • ボアズィチ大学カンディリ天文台地震観測所
  • トルコ
  • イスタンブル・被災地
留学期間:
12か月
総費用:
- 円 ・ 奨学金あり
  • トビタテ!留学JAPAN「日本代表/新・日本代表プログラム」 227円

語学力:

言語 留学前 留学後
トルコ語 生活に困らない程度の日常会話ができるレベル 専門的な研究や会議において、議論や調整ができるレベル

留学内容

現代社会では災害の頻発が問題となる中、私は「最後の一人まで取り残さない」「被災者が主体的に生きることができる社会」の実現を目指し、被災者の視点に立った研究と実践活動を行うことを目的に留学しました。具体的には、2023年2月に「世紀の大地震」とも称されたトルコ・シリア地震が発生したトルコで、“災害の実践”に関する研究を深めました。ボアズィチ大学では、トルコで最も歴史があり、最先端の地震研究・教育機関であるカンディリ天文台地震観測所の防災研究所(AHLAB)のメンバーと協力し、防災教育と社会認識に関する論文や書籍を共同執筆しました(いずれもトルコ語)。また、被災地では、教育複合施設で防災教育と映像・文章・芸術を通じた集団的記憶の保存に関するボランティア活動を行ったほか、被災者の経験がどのように災害認識や災害実践に影響を与えるか、被災を巡る裁判の動向、さらには早急な復興活動に伴う環境問題など、被災後の社会におけるさまざまな課題について調査を行いました。これらの活動を通じて得た重要な気づきは、トルコでは1999年のコジャエリ地震以降、震災に強い街づくりや意識向上が強く求められ、法制度改革や教育などさまざまな取り組みが行われてきたということです。しかし、復興を名目に利益追求が最優先されることで、脆弱な建物の建設が進み、それに伴うコンクリート工場や採石場の設置が加速しています。これにより、環境問題や健康被害が発生し、災害や破壊の悲劇が形を変えて繰り返される現実が浮き彫りとなりました。また、災害が単に制度や法律のみに起因するものではないことに気づきました。災害は、社会制度や人間の倫理など、さまざまな要素が複雑に絡み合い、相互に影響を与えながら形作られているのです。そのため、単に法整備や改革を行うだけでは不十分であり、人々の日常の小さな態度や言説、行動を、歴史や文化、社会などの多角的な視点から検討し続けることの重要性を学びました。

留学の動機

阪神淡路大震災を経験した神戸で育ち、被災者の声を通じて「誰一人取り残さない社会」を目指したいと思うようになりました。トルコの被災地での経験から、画一的な支援と現地の実情とのズレに気づき、被災者の文化や文脈に寄り添う実践の重要性を感じました。

成果

トルコの災間期における課題に注目し、災害認識の継続性の難しさを実感しました。ボアズィチ大学で多分野の専門家と協働し、学会発表7回、論文7本、書籍1冊を執筆。NGOや職業団体との協働を通じて、記憶の継承や防災教育の実践にも貢献しました。

ついた力

タイミングよく状況を見極めて決断する力

被災地では計画通りに進まない状況が多く、努力だけでは限界があることを痛感しました。その中で成果を出すには、状況を見極めて「今何をすべきか・何をすべきでないか」を即座に判断し、意思を明確に伝える決断力が不可欠であると学びました。

今後の展望

留学で得た経験を活かし、被災者の日常に寄り添った災害支援の社会実装を目指しています。博士論文や書籍で成果を発信し、多分野と連携して柔軟な支援策を模索。研究と現場の往復を通じ、常に被災者の視点を大切にしながら活動を続けたいと考えています。

留学スケジュール

2024年
8月~
2025年
7月

トルコ(イスタンブル・トルコ・シリア地震の被災地)

トルコ(イスタンブル/被災地)
2024年8月から2025年7月まで、ボアズィチ大学カンディリ天文台地震観測所にて研究・教育現場における災害実践に関する調査を行い、同期間中にトルコ・シリア地震に関する防災教育と社会認識についての共同研究にも取り組みました。また、被災地を頻繁に行き来しながら調査を行い、その成果を7回の学会発表、7本の論文、そして1冊の書籍(現在校正中)にまとめました。また、他の大学や異なる分野の機関を訪問し、災害心理学、捜索救助、医療などの専門家と共にミーティングやカンファレンスに参加しました。これらの場では、自身の研究に加え、日本の災害実践の歴史的経緯や現状についてプレゼンテーションを行い、将来的なコラボレーションの可能性について積極的にディスカッションしました。
被災地の教育複合施設をはじめとする各種NGO団体では、防災教育や映像、文章、芸術を通じた集合的記憶の保存などのボランティア活動を行いました。最初は言語や文化、慣習の違いからコミュニケーションに苦労しましたが、食事を共にしたり、会話やアクティビティを通じて関係性を深め、現地の人間関係やコミュニケーションのあり方を理解することができました。

費用詳細

学費:納入総額

- 円

住居費:月額

- 円

生活費:月額

- 円

ボアジチ大学カンディリ天文台地震観測所
街区のボランティア団体
トルコ・シリア地震の被災地Antakya
費用詳細

学費:納入総額

- 円

住居費:月額

- 円

生活費:月額

- 円

スペシャルエピソード

感謝してもしきれない、お世話になった・大好きな人

言葉や文化、制度の違いが大きい中、外国人かつ女性として被災地で生活し、研究と社会活動を両立するのは大変な挑戦でした。困難な状況のなかで、現地の人々との交流を通じて語学や文化の理解が深まり、心強さを感じました。イスタンブルでは、防災教育の専門家の女性研究者と家族ぐるみで交流し、互いの研究や思いを分かち合いました。被災地では、弁護士や心理カウンセラー、NGOの方々が温かく支えてくれました。隣町の弁護士は家庭の味を振る舞い、職員は私の怪我に気づいてそっと手当てしてくれ、辛い時には活動への参加を誘ってくれました。文化や言葉が違っても、人の痛みに寄り添い尊重し合う気持ちが、深い絆を生むことを実感しました。そんな小さな優しさが、何よりも心の支えとなりました。

一緒に研究に励んだ仲間
仮設住宅で働くNGO職員

心身の健康・安全を最優先し、適切な人・場所にたどり着くまであきらめずに助けを求め続けること

  • 生活 : 治安・安全

トルコで外国人かつ女性として被災地に暮らし、言語や文化、制度の違いに戸惑う中、研究と社会活動を両立する日々は困難の連続でした。留学中、地震や経済危機によって治安が悪化し、事件に巻き込まれるという深刻な経験をしました。言葉も制度も不慣れな中、パニック状態で何が正しい判断か分からず、助けを求めることすら難しく感じました。加えて、周囲との関係悪化や留学の中断を恐れ、声を上げられずに苦しんだ時期もあります。しかし、どんなに重要な研究や計画があっても、最優先すべきは自分自身の心身の安全であることを強く実感しました。我慢して何とかやり過ごそうとしても、後になって体調を崩したり、誤解や不信を招いて活動が継続できなくなるといった形で、必ず影響が出ます。
実際、助けを求めた中には、被害の詳細を聞くだけで何もしなかったり、制度に関する誤情報を与えたり、被害者を責めるような言動をする人もいました。その一方で、私の話を最後まで丁寧に聞き、専門的な知識で支えてくれた人たちもいます。特に、現地の弁護士会で無料相談に従事する弁護士や、女性の権利を支援するカウンセラーの存在は心強く、適切な情報と行動を得るための鍵となりました。
こうした体験を通じて、たとえ国や文化、制度が違っても、人の痛みに寄り添い、行動してくれる人は必ずいると学びました。事件や困難に直面したときは、怖くても、心折れそうでも、信頼できる場所にたどり着くまで声を上げ続けてほしい――それが私自身の実体験から伝えたいことです。

留学前にやっておけばよかったこと

語学の基礎を身につけ、現地の文化や制度を事前に理解しておくことで、トラブルを回避しやすくなります。また、自分の関心テーマに関連する情報をSNSで集め、現地のイベントに積極的に参加することで、重要な団体や人物とのつながりが生まれます。そこから紹介が広がり、研究や社会活動が深まっていきます。

留学を勧める・勧めない理由

海外での生活は、自分の過去や現在を客観的に見つめ直し、人生に本当に必要なものを見極める大きな機会になります。一方で、差別や偏見、強いストレスと向き合いながら心身の安全を守ることは簡単ではありません。それでも、その経験を通じて自己表現や適応の幅が広がり、どこにいても自分らしく生きやすくなる力が身につくと実感しました。

これから留学へ行く人へのメッセージ

将来をどう生きたいのか迷っている人ほど、留学には大きな意義があります。マイノリティとして異なる社会に身を置くことで、他者の痛みに気づく想像力や、困難な状況でも迷わず行動できる判断力が養われます。見えていなかった社会の側面や人間の本質が見え、自分にとって本当に大切なものを見極める力が育まれます。