留学大図鑑 留学大図鑑

栗脇剛

出身・在学高校:
高輪高等学校
出身・在学校:
東京藝術大学
出身・在学学部学科:
美術研究科建築専攻構造研究室所属
在籍企業・組織:


最終更新日:2021年05月18日 初回執筆日:2021年05月18日

木造建築の現場で素材との対話を学ぶ

留学テーマ・分野:
大学院生:交換・研究留学(日本の大学院に在籍しながら現地大学院内で学ぶ留学)
留学先(所属・専攻 / 国 / 都市):
  • アアルト大学 Wood Program
  • フィンランド
  • ヘルシンキ
留学期間:
14ヶ月
総費用:
2,240,000円 ・ 奨学金あり
  • トビタテ!留学JAPAN「日本代表/新・日本代表プログラム」 2,240,000円

語学力:

言語 留学前 留学後
英語 生活に困らない程度の日常会話ができるレベル 専門的な研究や会議において、議論や調整ができるレベル

留学内容

前半はアアルト大学のWood Program (以下Wood) という木造建築専門の通年教育コース、後半はヘルシンキ市内の建築事務所 Atelje Sotmaaでのインターンシップを通し、フィンランドの建築設計に携わった。
Woodでは座学や制作課題を通して木材の性質や構法を実践的に学び、次のインターンでは住宅設計などを通しそれらノウハウが現場でどう活かされているかに注視する。
このように技術とその活かし方を順序立てて体験することにより、木材など国の素材が、住み心地のいい住空間へと還元される一連の流れを肌で学ぶことができた。
最も印象的だったのは、一つの建築を学生の手で実際に建てられるWoodのプロジェクト。

留学の動機

大学で建築を学ぶ中で常に心惹かれたのは、形や素材といった目に見える要素が住み心地にもたらす影響力の強さだった。とりわけ興味を持った木材は、古来より日本建築を語る上で欠かせない素材。一方でどうにも個性が薄れつつある近年の日本の街並みに危機感を感じていた中、日本と同じく森林大国で有名なフィンランドに目が止まった。更には建築を実際に作れるWoodの存在を知り、留学欲はより掻き立てられた。

成果

コロナ禍の影響で作業環境の制約もあったが、なんとか木造パビリオン(仮設建築)を建てるに至った。カリキュラムで学んだ木材の生物学的な知識や国内の流通材を取り扱う技術を存分に発揮し、その成果を目に見える形でアウトプットできたことは大変貴重な経験だった。
また多国籍なメンバーでグループワークをする中で身についた多角的な視点も、これから物作りを生業にしていく上で大いに役立つと感じている。

ついた力

変化を楽しむ力

人種も文化も気候も全く違う環境下での制作活動、さらにはコロナ禍による学校閉鎖など生活基盤の激変。留学期間中はまさに環境変化の連続で困惑してばかりだった。とはいえ時間も限られているし、せっかくだからここでしか得られない物に注目しようというポジティブな気持ちも同時に芽生え、状況の変化を楽しみつつ、やれることをやるということを覚えた。

今後の展望

現在は学んだ技術や知識を日本のまちづくりに活かすべく、木材の新しい使い方をテーマにした修士設計に取り組んでいる。現在の日本建築での需要と照らしわせつつ成果をまとめ、それらを学外にも公表したいと考えている。卒業後は建築事務所に就職し、常に多角的な視点から良いデザインを提案できる設計者でありたい。

留学スケジュール

2019年
9月~
2020年
6月

フィンランド(ヘルシンキ)

アアルト大学のWood Program は、建築科の中でも木造建築を専門に学ぶ1年間のコース。座学、加工課題、建設プロジェクトなど内容は多彩。
・座学
フィンランド の木造建築の歴史や伝統工法のみならず、木材の生物学などデザインとは別ジャンルのものまで、実に多彩な講座を受ける。多国籍な学生層に対応し、使用言語は英語。製材所や工場見学など、校外授業も豊富。
・加工課題
実製作を通して木の特質を学ぶ課題。オブジェやパターン模様、建築の骨組みなど、製作物によって違った学びがある。大学の工房設備を好きなだけ使える点も魅力。
・建設プロジェクト
Woodの目玉プロジェクト。学んだノウハウを活かし設計から施工計画まで全て学生主体で行う(教員のサポート付き)。コロナの影響で作業時間が限られたものの、規模を縮小しなんとか建設に到った。

費用詳細

学費:納入総額

- 円

住居費:月額

- 円

生活費:月額

- 円

完成したパビリオンと製作メンバー達。かなりの達成感。
費用詳細

学費:納入総額

- 円

住居費:月額

- 円

生活費:月額

- 円

2020年
7月~
2020年
10月

(ヘルシンキ)

ヘルシンキ市内にある建築事務所 Atelje Sotamaa でのインターンシップ。フィンランド人の兄妹二人の主導のもと、イタリア人の所員3人で設計業務をこなす比較的小さいアトリエ事務所。フィンランド の建築事務所にしては珍しくインターナショナルであり、コロナ禍以前は他国からインターン生を募集したり、海外の大学で講演会も行っていた。こまめにコーヒーブレイクを挟んだり、ペットの犬を事務所に連れてきたりと、日本と比べるとアットホームな雰囲気。勤務時間も午前9時〜午後5時と良心的。親日家でもあり、業務経験の浅い自分にもやりたい仕事をやらせてくれた。特に思い出深いのは、ヘルシンキ郊外に位置する個人の木造住宅の改築計画。プロジェクト開始段階から関わり、とりわけ多くの業務をさせてもらえた。既存の住宅図面を3Dモデルにしてイメージ共有をする、デザインの基本コンセプトを決めるための参照事例を探すなど。

費用詳細

学費:納入総額

- 円

住居費:月額

- 円

生活費:月額

- 円

事務所での打ち合わせ風景。建物の表面塗装を検討中。
費用詳細

学費:納入総額

- 円

住居費:月額

- 円

生活費:月額

- 円

スペシャルエピソード

ココでしか得られなかった、貴重な学び

正直な所、留学中は楽しい時間より憂鬱な時間の方が多かった。要因としてはコミュニケーションの不全もあったが、やはり特筆すべきはフィンランドの冬独特の暗い気候。加えて3月からのコロナ禍で鬱にすらなりかけた。しかし周囲の友人と接するにつれ、自分と同じ悩みを抱えている人は沢山いることを知った。そしてそんな時のための娯楽文化が、実はフィンランドには沢山あるんだということも。自分が特にお世話になったのがトレーニングジムやサウナ、そして身近な自然の散策。どんな状況においても趣味を楽しみ、心にゆとりを持つことを忘れない国民性には本当に救われたと今でも思う。この「趣味を楽しむ」という姿勢を、自分の人生の指針としてこれからも大切にしていきたい。

雄大な湖畔を目の前にして飲むビールは、まさに最高の一言。

住居は信用できるサイトで探そう

  • 住まい探し : シェアハウス

交換留学でフィンランドに行くなら学校側から学生寮を契約してもらえるケースが多いが、そうでない場合は自分で住居を探さなければならない。その方法として一番メジャーなのは、Facebookの物件市場グループに加入して探してみる事だが、残念なことに振り込め詐欺も少なからず横行している。そこでもう一つお勧めしたいのが、フィンランドの大学(自分の場合はアアルト大学)が管理するマーケットサイト。取り扱っているのは主にインテリアだが、時折シェアフラットも売りに出ていることがあり、自分もそこで見つける事ができた。「大学の管理下にあるから100%安全」というわけではないが、選択肢の一つに入れておいて損は無い。ちなみに契約の際は、ビデオ電話などで実際にその部屋の中を見せてもらえるとより安全。逆にこれを頑なに拒んでくる人が相手の場合、詐欺(架空物件)の可能性が高いので要注意。

これから留学へ行く人へのメッセージ

今留学を考えている人の中には、どこで何をどう学ぶのか具体的に計画を練っている人も多いでしょう。自分もそうでした。ですがはっきり言って、その計画通りに事が進む事はほぼありませんでした。しかしそんな中でもがむしゃらに食らいついた結果得られた成果と、何よりその過程で得た意外な教訓が沢山あります。行ってみなけれはわからない予想外の学びもまた大事な収穫であり、留学の一番の価値なのではないでしょうか。